2016年6月24日金曜日

SOTO・MUKAとMSRウィスパーライトインターナショナル

昨今、アウトドアで石油ストーブを使うことはめっきり少なくなった。理由は主に、他の燃料が昔より手に入りやすくなったことだろう。流通と情報の問題だ。
逆に言えば、他の燃料が手に入りにくい状況ならまだ石油ストーブの出番があり得るということだ。ちょっとSOTOのMUKAを借りる機会があったので、久しぶりに自分のMSRを引っ張り出してみた。
比較してレビュー、と思ったのだけど点火してすぐにあきらめた。火力が大きすぎる(笑)。特にMUKAは個人で性能をどうこう言えるレベルじゃあない。さすが、新富士"バーナー" の製品。


石油ストーブはいろいろあるけれど、燃料はざっくり言うと灯油系とガソリン系に分かれる。灯油は、厳密には日本の灯油とアメリカのケロシンは違う(工業規格による成分指定の違い)が、ストーブに使う分には問題ない。どこでも手に入ると言っていいし、安い。日本では冬場にはガソリンより2割ほど安く、夏ならさらにその半額くらいになる。

MSRの「ウィスパーライトインターナショナル」は、灯油とガソリンどちらも使えるロングセラー商品だ。名作と言っていいと思う。シンプルな構造で故障が少なく、石油ストーブとしてはかなり軽い。灯油とガソリンの切り替えには、「ジェット」と呼ばれる噴出口のパーツ交換が必要になる。
購入当時、自分は1円でもケチりたくて灯油ばっかり使っていた。しかし、ススがたくさん出てしょうがないのである。ススは手に付き服に付き、それが移って荷物がどんどん黒く汚れ、たぶん食事したりしているうちに顔にも付いたりして、野外で遊んだ帰りに電車に乗ると、後から乗ってきた人が一瞬ぎょっとしてこちらを見ることがあった。米でも炊くならともかく、インスタントを一日3食ストーブで調理しても、ガソリン代は10円くらいしかかからないことに気づいてからは、転向してガソリン一筋を貫いている。
もう一生灯油使いには戻らないと思っていたが、セルフのガススタンドが増え、ガソリンが暴騰したり震災によるガソリン不足があったりして、持参したボトルにガソリンを入れてくれる業者はめっきり少なくなった。近所なら知っているスタンドで問題ないが、もう旅先でガソリンを補充できる自信がない。なにしろこちらは徒歩だから、田舎だとダメならちょっと隣のスタンドまでなんて無理なのだ。こんな時代が来るとは思いもしなかった。もしかすると、いずれ灯油派に戻る日が来るのだろうか。

まあ当面はガソリン、という状況が続いている。アウトドアストーブには「ホワイトガソリン」という 、よりススの出ない(そして高い)燃料も使われるが、そこは旅先での調達を意識して自動車用。伝統的(笑)に、ホワイトと区別して「赤ガス」と呼ぶ。本来、赤ガスというのは鉛を含んだガソリン(もう日本では売ってない)のはずで、つまり無鉛ガソリン(現在手に入る自動車用レギュラーガソリン)は別に赤じゃないと思うのだけれど。
そういえば日本には「白灯油」というややこしい言葉があり、これはかつて「茶灯油」というのがあったのだがもう流通しておらず、だから我々が現在使っている「灯油」は全て白灯油なのだからわざわざ白なんて言わなくてもいいのだが、どうしてもそう言いたいメーカーがいるらしく、アウトドア用品店の燃料コーナーに行くと「ホワイトガソリン」と「白灯油」の缶が並んで売ってたりする。


燃料の話は尽きないが、ともかくウィスパーライトインターナショナル。ちなみに、インターナショナルじゃない「MSR ウィスパーライト」というストーブもあるが、それはホワイトガソリン専用で、自動車用ガソリンを使うとすぐススで目詰まりするそうだ。
ユーザーなら誰もがネタにする、本体とボトルのポンプ部分の接続。先端に”唾液あるいはオイルを塗って”差し込めと説明書に書いてある(笑)。ボトル内の空気をポンプで加圧し、燃料が圧力で押し出されるようにする。
少しだけ燃料を出すと本体下部の小さな皿にたまるので、金属メッシュ(ウィック)を灯芯として点火することができる。このプレヒート(予熱)作業は、ガソリンでもそこそこススが出る。
本体が熱くなると、燃料はライン内でガス(気体)になるので、灯芯がなくても燃えるようになる。ここから上の皿でガスを燃やし調理などに使う。皿の上側のススはほぼ燃えてなくなる。
プレヒートでススがついた本体下部。これを避けるために、アルコールや固形燃料でプレヒートを行うユーザーもいる。ハイカーとしては、別の燃料を持ち歩くのは現実的ではないが・・・
分解したところ。中央右の「ジェット」が目詰まりするのが、ススが出ることの最大の問題点。中央左の「ニードル」は分解清掃に使うが、そもそも普段ジェットの内側に収まっていて、本体をシャカシャカ振ると多少の詰まりは解消できる。

ウィスパーライトインターナショナルは大型の鍋でも安定して載せられるが、逆に小さなカップを載せて一杯分だけお湯を沸かすのは無理だ。ゴトクが広すぎるからで、自分の手持ちだと、250gのOD缶がすっぽり入る鍋でようやくフィットする感じ。暖かい飲み物を野外で作るという行為にはファンが多く、名作ストーブの数少ない残念な点だと思う。


さて、一方のSOTO MUKA。
こちらはガソリン専用。プレヒートが不要、というガソリンストーブとしては驚きの機能を持っている割に、本体は小さく軽い。ウィスパーライトインターナショナル(マイナーチェンジを繰り返しているのでバージョンによってわずかに重量は異なる)とほぼ同じ、本体+ポンプで333g。
燃料のライン接続部が回せるようになっており、折りたたんだサイズはかなり小さくなる。使用時はねじれ防止にもなる機構。
広口ボトル、金属ピストン、緊急消火ボタンにもなるコントロールダイヤル。ダイヤルは最近マイナーチェンジして、大きく平たくなった(写真は新型)。
バルブを開けてから点火すると直後はこう。本当はウィスパーライトインターナショナルもプレヒート火炎がこのくらいになるのだが、自分はもしもの時にテント内で使えるよう、炎を小さくする練習をしている。MUKAでは最初からガス(気体)が出るので、火を近づけた状態でバルブを開くのが正解。片手でバルブを開けねばならないが、ダイヤル式ならさほど難しくはない。
小さなカップも載るゴトク。このカップ(MSR、400ml)は実測で内径7.5cmくらい。大き目のクッカーも安定して載る。

プレヒートがいらない、というのは手間が減ると同時にススが出ないことでもある。革命的だ。
SOTOのガソリンボトルは、まるで最近の飲料用金属ボトルのように口が広い。MSRのストーブは元々、金属ボトルの伝説的名作であるSIGGボトルが使えるように作られている。だがこの世界でも時代は移り、SIGGは燃料用ボトルの製造を止めてしまった(飲料用ボトルはまだ売っている)。新しくボトルを作るなら、あんなに細口にする必要はない・・・と理屈で考えれば分かるが、実際に広口のガソリンボトルを作ったというのはかなり野心的だと思う。もちろん、ガソリンを注ぐのは楽になる。
コントローラーはダイヤル式で、火力の調節もかなり自由。回すだけでなく平らな面を押し込むことで、緊急消火もできる。実は、MSRもかつてはダイヤル式のコントロールバルブを採用していた。個人的には現行MSRのレバー式より、圧倒的にMUKAのダイヤル式の方が使いやすい。ちなみにウィスパーライトインターナショナルはそもそも火力の調整があまりできないから、レバー式でも困りはしない。
アメリカで自分が出会ったガソリンストーブユーザー のほとんどは、クラシックな道具を愛好するタイプだった。彼らが一様に口にしたのが「MSRのポンプはプラスチックのプランジャー(ピストン)を採用したのが気に入らない」ということだった。コレに関してはネットで探すと熱い(がマニア以外にはどうでもいい)議論が交わされているが、とにかくSOTOは金属のピストンを採用。見た目は美しい。耐久性やその他の違いは・・・10年位すればマニアがネットに報告してくれるかも(笑)。ポンピングすると、小さな金属部分が出っ張ってきて圧が十分かどうか分かるようになっているのも便利だ。

このように違いがいくつかあるが、もう一つMUKAには大変な利点があった。
使い終わってコントロールダイヤルを「Air」にすると、燃料ライン内に空気が導入されて、残ったガソリンがボトルに戻るのだ。だから石油ストーブにつき物の、荷物がどんどんガソリン(または灯油)臭くなるということがない。コレはすごいことだと思うのだけれど、なぜかSOTOは公式ウェブサイトにこの機構の説明を載せていない。この一点だけでも他社製品から乗り換える理由になるくらいに、個人的には素晴らしいと思う。


最後に、一般的な故障について考察。ウィスパーライトインターナショナルはポンプをボトルに締め付けるシール、コントロールバルブ根元のOリング、ポンプと燃料ライン接続部のOリング、この3ヵ所が劣化して、燃料漏れ(または空気漏れ)を起こす可能性がある。本体は金属パーツのみでできているので、なんと目詰まりさえ解消し続ければ半永久的に使える。燃料ラインも中をワイヤーが通っていて、外から引っ張って動かすことで詰まりを解消できる。故障の少なさとメンテナンスの容易さこそが「名作」として多くのユーザーに支持されてきた最大の要因だろう。
一方のMUKAは、燃料ラインが本体に接続するヒンジ部分から燃料もれするとの報告がネット上に散見される。ここはOリングが3連で仕込まれていて、普通に使っている分には劣化するまで漏れるとは考えづらいのだけれど、物理的に弱いのだろうか。また、メーカーとしては「ジェネレーター」を定期的に交換するよう推奨している。コレはガソリンが炎の上をまたぐ金属パイプ部分に、噴出口(ここで燃料を「霧化」しているはず)が一体化したパーツ。しかし、5ヵ月にわたって野外でMUKAを使ったヒト(MASAさん)から、そんな話は聞かなかった。かなり長持ちするのは間違いない。

総合的に考えて、今もし誰かに「ガソリンストーブ、どれがオススメ?」と聞かれたら、まずMUKAを選ぶ。自分は今でもウィスパーライトインターナショナルを「楽しむ」ことができるけれど、実用面から考えたらあまり意味はない。現在、ほとんどの石油ストーブはクラシックなギアとして、不便さを味わいながらたまに使うものになりつつある。この時代に実用的なガソリンストーブが発売された(MUKAは2011年発売)だけでなく、ダイヤルが変更されたということはまだ改良もしているわけで、ちょっと抜きん出た製品ではないだろうか。