2017年5月31日水曜日

妄想バックパック脳内検討委員会(前編)

久しぶりに、メインのバックパックを買い替えようかなと検討中。自分はだいたい、60リットルくらいのをロングトレイルに使っている。3泊くらいまでなら最近はOspreyTalon44を使っているが、5泊以上のセクションがあって期間が1カ月以上になると、もう少し容量が欲しい。
また、時には自分のスタイルをはみ出した視野でギアを見てみると、自分がなぜ今のを使っているかが浮かび上がってきて役に立つことがある。新しい考えが入ってくることもあるし、何より楽しい(笑)。
ということで、軽い順に妄想。


軽量級

世の中には500gを切るような超軽量級もあるが、そこまではカバーできない。まずは軽量級定番のゴッサマーギア。

Gossamer Gear Mariposa 60


容量だけ考えるとマリポーサになる(アメリカ人の発音を聞くと、コレを「マリポサ」と書くのは自分には耐え難い)。自分は現在、ウレタンマットを背中に入れない前提でエアマットを使っている。そもそも荷物が重いので、この手のバックパックは対象外だったのだが、ゴッサマーは2016年にえらくしっかりしたヒップベルトを出し、コレがマリポーサのアルミフレームを差し込むことで一体化する形になっている。パッドさえ入れれば自分のスタイルでも十分アリだ。脇のポケットにソフトウォーターバッグを入れると、手持ちの水容器が全てソフトタイプになる。水バッグはリークが怖いので、外にはハードボトル(だいたいペットボトル)で中にはソフトタイプのウォーターバッグ、が自分のスタイルだ。ココは個人的には使いづらそう。
最近のウルトラライターを見ていると、ゴッサマーでもゴリラ40が多い。ただ40リットルでは自分には無理があるので、もう少し大きなシルバーバックか。

Gossamer Gear  Silverback 50


一応フレームが入って、背中のムレを防ぐメッシュパネルがあり、外にハードボトルで水を入れる。こっちの方が現実的だ。

しかし、他のブランドならもっと容量が大きなモデルがある。だいたいウルトラライトのバックパックは外ポケットをルースにして容量に数えているから、少し大きめを選ぶ必要がある。

Hyperlite Mountain Gear 

3400 Windrider


ロングトレイルでも自分のような超ロングディスタンスをやっていると、ゴッサマーよりもHMGの方が周りに多くなってくるように感じる。ゴリラとかは、12週間くらいのセクションをウルトラライトで歩いているハイカーに多い。
実はヘイデュークトレイルを歩くに当たって、自分は真剣にウインドライダーを検討した。ただ、ロールトップだけだとおそらく自分は入り切らないくらい詰め込んでしまうから、買うとしたらもう1サイズ大きな4400(70リットル相当)が妥当だろう。しかし、ヘイデュークでは食料や水を大量に運ぶために容量が必要だから、自分のやり方だと瞬間的に総重量25kgオーバーとかになりかねない。さすがに無理がある、と考えてやめた。
あとやっぱり、背中にパネルは欲しい(アルミフレームはある)。となると、ほぼ同様の構造ということでこっちもある。

Zpacks Arc Blast


Zpacksがバックパックを作り始めた時、自分の周りではあまり評判が良くなかった。使っていたのはスカウト(2015CDT)くらいだ。大きめのフレームとメッシュパネルが別売りで、自作で取り付けることになっている。


側面がコンプレッションできるのもいいし、色々オプションもあるから軽量級ならほぼ納得のスペックだ。今からアメリカ3大ロングトレイルを歩くなら、個人的には軽量級の第一候補になる。ヘイデュークでは8日間のセクションとかが連発で、55リットルでは少し物足りないから検討しなかったけれど。下から内部にアクセスできるジッパーを別注で付けてくれるなら、いずれ買ってしまいそうだ(笑)。

ウルトラライトのブランドも、取り外しを前提としないフレームや背中のメッシュパネルを採用するモデルを随分と出してくるようになった。つまりこれは一つのトレンドと言えるだろう。自分はこのトレンド感というのを割と重視していて、同じような構造のギアが各メーカーからどんどん出てくる時期というのがあるのだ。超軽量を突き詰めるハイカー達は別にして、次のブレイクスルーが訪れるまではこの形が軽量級のスタンダードになるだろうと思う。


軽中量級

長旅には2気室、が自分のスタイルだけれど、1気室を受け入れれば俄然バックパックは軽くなる。まずはアメリカのロングトレイルと言えばコレ、エクソス。

Osprey Exos58


個人的には少し横幅が広いのが気に入らないけれど、容量があってかなり軽く、それでも結構頑丈にできている。REIFlashなどが同じような構造を採用していたから、これも一つのトレンドを作ったバックパックだと言える。今見たらエクソスはオフィシャルサイトで在庫無しになっているが、モデルチェンジするのだろうか。

もっと以前にトレンド、というか一時代を築いたのがグラナイトギアだ。

Granite Gear  Crown V.C. 60


非ユーザーからすると、もう進化を止めてしまったかのようなクラウン。そもそもトップリッドはオプションで、本体は本当に一つの袋みたいな構造がシンプルの極みだ。ナイロンの布を買って封筒の形に縫い、バックパックメーカーのショルダーハーネスとヒップベルトを付けるという自作派の、理想がそのまま市販されてしまったかのようだ。個人的には重心が低くなりすぎるのが不満だが、入り切らない荷物をトップにくくりつけることもできなくはないし、背面パッドもかなりしっかりしていて、何と言っても軽い。確かに、もう何も変わらなくてもいいかもしれない。だが、それならもっと何かあるんじゃないかというのが現代だ。

今は、何と言ってもULA だろう。

ULA Catalyst


1つの袋をいかに背負い心地よく仕上げるか、のトップを走っているのがULAだろう。勝手に軽中量級に入れてしまったが他より少し重く、その分丈夫だ。
また、意外に大事なのがヒップベルトが交換できることで、長期間歩いているとパーツが壊れるのはもちろんだが、ウエストのサイズが変わってしまうことがよくあるのだ。スルーハイクでカラダのシェイプを変えた(痩せた)アメリカ人ハイカーたちを見ていると、どうしてヒップベルトを取り外しできないバックパックが存在するのかのか不思議に思えてくる。この3種の中ではエクソスだけができない。

軽中量級は上記3種あたりがもう完成形を見ていて、次のトレンドとなる形を探している時期ではないだろうか。

Vaude Zerum 58


最初に見た時、前面(背中から遠い方)がガバッと開いて気室内にアクセスできるのかと思ってコーフンしたゼルム。結局そのジッパーは前面ポケットだけのもので、その周りにはさらに外ポケット的な(多分メッシュとかで)覆いを取り付けられるようにクリップホルダーがあった。どっちか片方だけでいいのではないか、と思うが。背負い心地と軽さをどこまでバランス良く作ってくれるか、今後に期待。アメリカで「国外ブランドのバックパック」というと、メジャーなのはドイターくらいだから、バラエティを考えてもっと伸びて欲しいブランドではある。

Deuter ACT Zero


このクラスに入れるには少々重いが、トップリッドが取り外せるので。ドイターのACTシリーズは上の口を紐で絞る、巾着袋の構造を取ってきたが、ACT Zeroではロールトップにしている。前面(背中から遠い方)のポケットはどうやらヘルメットを入れられるようになっているらしい。個人的にはウインドライダーのようにメッシュのモデルも出して欲しい。ACT Zeroの初期モデルには無かったと思うが、ボトムの外側にマットなどを付けられるストラップがある。

それにつけても軽中量級を見ていて思うのは、どうしてボトムにジッパーをつけてくれないのかという点だ。近年の2気室バックパックはほとんどが隔壁を外すなり一部をフリーにするなりして、上下からアクセスできる1気室として使えるようになっている。なぜ同じメーカーで下からのアクセスが有用だろうという意見が出ないのか。



さて、ここまでが前編。後編はいよいよ自分の本命である中量級と、軽重量級を検討(妄想)。そして、結局何を買うのか!実はもうネットで発注しました(笑)震えて待て……じゃなかった乞う御期待!


2017年5月28日日曜日

ハイカーの話(テンゾ)

ハイカーの話(テンゾ)

スルーハイカーは、実はロングトレイルではマイノリティだ。しかしうっかりするとスルーハイカー同士ばかりで仲良くし、狭い人間関係に陥ってしまう。
ロングトレイルには、もっと本来の意味でのハイカーがたくさんいる。今回はその、セクションハイカーの話。

テンゾ(Tenzo)と会ったのはノースカロライナかテネシーあたり、ATの南の方だった。彼は朝食の席で「それで、キミは日本人なのかね?」と話しかけてきたのだ。ATには「シェルター」と呼ばれる簡易的な山小屋がたくさんあり、シェルターはよくピクニックテーブルを備えていて、食事時ともなれば順番待ちになる…ああ、野外でイスとテーブルが使えるというのは、なんと素晴らしいことか!
そしてそこはアメリカ、食事の席は社交の場でもあるのだった。見知らぬ者同士は自己紹介して挨拶し、親交を深めるのがマナーなのだ。だから、話しかけられたこと自体は驚くことじゃない。
しかし「そうだけど、どうして?」と聞き返すと彼は「キミのラップトップを見たんだ。すごいねあれ」と答えたので笑った。そんな控えめな反応は初めてだ。
自分はこの時、SONYのVAIO type Pを運んでいた。ジーンズの尻ポケットに入る、という衝撃的な広告で世に出た長細いノートPCだったが、本体が600gもないのに充電アダプタが200g近くある、時代の一歩先を行ってしまったソニーらしい残念な製品だった。それはともかく、自分がシェルターなどで日記でもつけようかとコレを開くと、近くの誰かが「おっ、スゲーな」などと言って寄ってくるのである。そして「持っていいか?お〜軽い!これなら運べなくもないな!なあ、俺はニホンゴの入力に興味があるんだけど、ちょっとやってもらえないか?どうやって打つんだ?おお、なんだこのキーボードは!なあ、どうやって使うの?えっ?アルファベットでもできる?どういうこと?とにかくニホンゴ出してみせてくれ。おおおお〜なんだこれ!ヘイみんな!来てみろよ!」とかなってしまい日記どころじゃなくなるのだ。自分はだんだん人から離れてコソコソとPCを使うようになり、そのうちPCが不安定になり動かなくなってしまった。確かこの日は早朝からシェルターの外で密かにPCを開いたのだが、日記をつけるところまで辿り着かずに不安定なPCと闘い、結局諦めてメシにしたのだった。
「まあね。ああいうの、見たことあるの?」と推察して聞くと「ああ、ムスメが日本人と結婚してね。日本に行ったことがあるんだ」という。なるほど。
そこでお互い自己紹介したのだが、彼は「私はテンゾというんだ。この名前は、ちょっと日本と関わりがあってね…」と思わせぶりに名乗ってきた。
ロングトレイルでは、ハイカーはトレイルネームというアダ名を使うことが多い。歩く期間が長ければ長いほどそうで、自分は仲良くなったハイカーの本名をほとんど知らない。テンゾという言葉の響きも、英語らしさは全くない。でも、何だろう?と訝しがっていると「この名前は、あるゼン・テンプルのホステルでもらったんだ。私は以前、ピッツバーグでシェフをしていてね。ゼンの世界では、シェフのことをそう呼ぶんだろう?」といたずらっぽく片目をつぶって見せた。え?
「えっ、ちょっと待ってくれ。テンゾって、てんぞ(典座)のこと?そんな言葉、日本人だって滅多に知らないよ!」というと「そうなのかな。でも、とっても気に入っているんだ!」と彼は満面の笑顔を浮かべた。
ややこしいから説明を交えてしまうけれど、まず世の中には「ホステル」と呼ばれる宿がある。日本ではユースホステルが突出して有名だが、ユースホステル協会に加盟していなくてもホステルはホステルだ。一部屋にベッドがたくさんあって見知らぬ同士が一緒に泊まり、トイレやシャワーは共同で使う。だいたい共同のキッチンがあって料理もできる。自分のような、ビンボ…じゃなかった節約旅行の経験が多ければ、まず必ずお世話になるタイプの宿である。
ここで面白いのが、アメリカはキリスト教社会であるということだ。この国には「困っている人を助けてやろう」という精神があるのである。そして、そもそも教会というところは、巡礼者を始めとして旅人を泊めるシステムを持っているのだった。するとどうなるかというと、ATのようなメジャーなロングトレイル"沿線"の街では、教会がハイカーの宿をホステル形式で運営している例が結構あるのだった。どれも商売性ゼロの格安で、運が良ければ無料の食事と、ありがたいお話が付いてきちゃったりする。
そしてテンゾが言うには、CT(コロラド・トレイル)にはゼン・テンプル、つまり禅寺が運営するホステルがあるらしい。そして、そこで料理の腕を振るってみせた彼は「オー、ユー・アー・テンゾ!」と坊さんから命名されたとのことだった。自分の印象では、典座というのは何十人も坊さんがいる禅寺での料理長に当たる、まあまあエラい人なのだが。禅寺がハイカーを泊まらせている、というのは時々聞くウワサだったが、具体的な話が聞けたのは初めてだった。教会がやってるんだから寺も、ということで、案外みんな不思議に思わない。
テンゾの娘さんは関西圏にいるようで、彼は日本に行った時ブリット・ライナー(弾丸列車。新幹線のこと)に乗ったという。窓から富士山も見えたそうで「完璧なフォルムだ。美しいね!」と嬉しそうに言った。
我々は、色違いの同じジャケットを着ているのに気づいて笑いあった。それはモンベルのサーマラップジャケットで、見た目は軽量ダウンジャケットなのだが、実は中綿が化繊で、濡れてしまってもかなり体温を保つのである。「ATは雨が多いからね。コレは濡れても温かくて、それなのにすごく小さくなるし軽い。素晴らしいよ!」とテンゾは盛んにそのジャケットを褒めた。かなりの日本び
いきだ。
彼は「キミに良いものをあげよう」と言ってプラスチックパックから何かを出してきた。見るとそれはスティック状の袋に入った粉末飲料で「Green Tea」と書いてある。「キミにはこれが必要だろう!」と力強くいうのだが、よく見ると「Lemmon Flavour」とある。うん、アメリカ人にとっては、緑茶も紅茶もお茶なのだった。
テンゾとはそのあと何回かシェルターで一緒になった。彼はいつも朝早くに出発し、午後の早い時間にはキャンプを定めていた。こっちはまるきりの行き当たりばったりで、そのうち彼がどこにいるのか分からなくなってしまった。セクションだから、どこかの目的地で彼のハイクは終わるのだ。
こうして多くのハイカーとトレイルネームを名乗り合い、少しだけ親交を深めながらそのうち別れるのを繰り返して、スルーハイカーは毎日進んで行く。その、もう二度と会わないかもしれない相手たちを思い出す時、思わずちょっと切ない気分になる。それもまた、長期間にわたるハイクの味わいの一面である。