2017年12月3日日曜日

シエラネバダの「メインテナー」(トレイルの話)


シエラネバダ山中の、石で囲って崩れにくくしたトレイル。一番手前の石は「ウォーターバー」で、写真の左側に水を逃がすようになっている
2014年、PCTを歩いていた時の話。
シエラネバダ山中では、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)とJMT(ジョン・ミューア・トレイル)がほぼ重なる。ここで自分は「メインテナー」と会った。
実は2012年にも同じあたりで作業している一団と会っていて、少し質問させてもらった。前回も今回も彼らは数人1チームで、スコップやツルハシ、ノコギリ等をトレイルの側に置き、何やら作業していたのだ。彼らがトレイルメンテナンスを専門に行う短期労働者で、給料をもらって作業しているということまでは前回聞いていた。
今回はまだ準備中のようだったので、ヒマそうな1人のヒゲもじゃを捕まえ、立ったまま話をした。自分としてはもう定番の、日本から来たんだけど質問していいかという流れだ。この聞き方は大変便利で、大概の人間が答えてくれる。ヒゲは何年か続けてこの仕事をしているらしく、かなり詳しく教えてくれた。
「それで、キミたちは『メインテナー』なんだね?」
「まあそうだな。正確にどう呼ぶのかは知らないが、俺たちはそう言っている」
「『レンジャー』じゃないの?」
レンジャーの仕事には、トレイルメンテナンスも含まれる。
「違うんだ。ほら、レンジャーは制服着てるだろ」
レンジャーは、National Park Service(国立公園を所管)やU.S.Forest Service(国有林)など所属する組織のワッペンがついた制服を着ている。しかし、彼らは見事なまでに薄汚い私服だった。Tシャツにネルのワイシャツ、ジーンズやカーゴパンツといった出で立ちで、Tシャツなどは「元は白かった」のが見てとれるくらいだ。
「制服くらい、貸してもらえないの?」
「う~ん、俺たちは、国立公園とかで働いているわけじゃないからなあ」
「どういうこと?何て言うか、キミたちの給料はどこが出してるの?」
「俺たちはな、『インターエージェンシー』に雇われているんだ。給料もそこから出てる」
「ええっ?そうなのか!」
国立公園はそれぞれが独自の予算と人員を抱えているし、国有林とはそもそも省庁が違う(国立公園は内務省、国有林は農務省)。しかし自然が豊かな地域では、当然いくつもの保護区が隣り合っていたりする。我々ユーザーの視点からすると「歩いていると隣の保護区に入ってしまう」ようなエリアでは、複数の地域に対して通用する入場許可証(permit)が発行される事がある。これがインターエージェンシーで、場所によってはインターエージェンシーのビジターセンターが置かれていたりする。
悪名高きJMTのパーミットは、このシステムで発行されている。南北に走るJMTに北側からアクセスすると、ハイカーはまずヨセミテ国立公園に入ることになり、公園内でパーミットを求めることができる。しかし実は、JMT南端近くの道路沿いにはインターエージェンシーのビジターセンターがあり、マウント・ホイットニーの登山やJMTのパーミットを発行している。
言われてみれば、自分はそのセンターがどんな予算で運営されているのか考えたことが無かった。ヨセミテの様子から、インターエージェンシーというのはバーチャルな組織で、国立公園の職員がその業務を行っているようなイメージでいたのだ。彼の説明の通りなら、インターエージェンシーも独立した組織として予算と人員を持つことになる。
「じゃあ、自分が所属する省庁は知らないんだね?」
「そうだな。俺たちはパートタイマーで、公務員じゃないし」 
パートタイマーというのは通常、日本で言うアルバイトのことだ。しかし、この場合・・・
「それそれ。キミら、夏だけ働くって聞いたけど」
「うん。だいたい5月から10月くらいかな」
シーズナル(季節労働)なのだ。
「5ヵ月って、山に通うの?」
「泊まってるんだ。近くにレンジャーステーションがあるの、知ってるか?」
「地図で位置は知ってる。JMTから外れてるから、行ったことないけど」
「あの中にバンクベッド(多段ベッド)があってな。向こう数日はそこだ」
「テントにコットとかじゃないのか」
コットというのはフレームに布を張った簡易ベッドのことで、建物の建設に制限がある国立公園などでは、なんと言うか運動会に使うような頑丈なテントに、壁も屋根と同じ頑丈な布を張り、コットを仕込んだものが時々見られる。こういったテントを使った観光客向けの宿泊施設もある。
「そういうところもある。シエラのエリア内に、何ヵ所か俺たちが泊まれるところがあるんだ。作業が済んだら、次の作業に近い施設に移動する」
「街に降りないの?」
「休日は1日とか2日なんだ。降りても良いけど、俺はほとんど山の中だね」
「食事やシャワーはどうしてるの?」
「食料はレンジャーたちが、ラバで運んでくれる」
「あ、あの『キャラバン』は、キミたちの食料を運んでいるのか!」
トレイルヘッド(トレイルの入り口)の駐車場で。ハイカーたちと、ラバのキャラバンが行き違ったところ。
シエラの山中で何回か見たことがある。馬に乗ったレンジャーが、荷物を背負わせたラバ(オスのロバとメスの馬から生まれる家畜)の一団を率いているのだ。ハイカーたちはキャラバン(隊商)と呼んでいた。レンジャーたちも山中で過ごしているからその生活物資と思っていたが、メインテナーの分も運んでいたのか。
「だから街に降りなくていい」
「シャワーは?ぜんぜん浴びないの?」
「ぜんぜんってことはないよ。ヨセミテ・バレーにはシャワーがあるから、あのエリアでは普通に浴びている。洗濯もするし」
ヨセミテ・バレーは、広大なシエラネバダで唯一の「観光客を大規模に受け入れている」場所だ。シャワーだけでなく、コインランドリーにプールまである。 関係者向けの家屋も多少は建てられている。野外生活の必要はない。
「他のエリアでは?」
「ハイカーがシャワーを浴びられるところでは俺たちもそうしているよ。あとは、時々だが体に石鹸を塗りたくって、川や湖に飛び込むな!」
わはは、とお互いに笑いあった。アウトドアを全くやらないヒトたちは、野外に出る我々を「川とかで体洗ったりするんでしょ」などとフケツさや過酷さを際立たせたイメージで馬鹿にする。実際にはこういった行為はシャレの範疇で、それに依存することはない。時々なら逆に面白い(シャレだから)し、やったほうが清潔になるのも事実だけれど。そこらへんの距離感は、長距離ハイカーもメインテナーも同じような感覚のようだ。 山中にリゾートなどがあれば、普段はそこへ行ってシャワーを使うのである。
「それでさ、どんな作業をしてるの?」
「雪解けが始まるとシーズンで、まずは『ドレーン』の掃除だな。冬の間に枯葉とか小枝がたまって、土をキャッチして埋まってしまうんだ。ハイカーがどっと来る前にコレを掃除してドレーンを通すのが第一で、一緒に『ウォーターバー』の手入れもしなきゃならない」
ドレーンとは排水路のことだ。山道というのはどうしても水の通り道となってしまうもので、放っておくと雨や雪解け水でどんどん路面が削られていってしまう。アメリカのトレイルには、この水を斜面の下側に逃がすための排水路がよく設けられている。ウォーターバーは、水をドレーンに導く「棒」なのだが、木の棒だったり石を並べたものだったり、場所によってはゴムの板だったりもする。トレイルに対してナナメに設置されているから見れば分かる。
「もう6月だけど」とニヤニヤしながら突っ込むと
「アハハ、そうだな!ドレーンの作業はそろそろ終わりだ」と彼も笑った。すでにハイカーが押し寄せる季節になってしまっていた。
「それで?その後は?」
「崩落なんかがあればその補修があるんだが、今年は急ぎのはなさそうだな。とりあえずこのエリアのドレーンを片付けたら、ハードユース区間に岩でステップ(段)を置く予定が入っている」
「へー。JMTの『人口』を考えると、そのうちトレイル全部が岩で覆われちまいそうだけど」
「それは俺も残念に思っている。自然な感じがしなくなるからな。でも、土のままだと崩れたりするし。仕方ないと思う」
「他にはどんな作業があるの?」
「滅多にないが、トレイルを閉鎖して並行するトレイルを新設することがある。そのくらいかな、大きな仕事といえば」
つまり彼らは「トレイルビルダー」でもあるわけだ。正式な職業名は何なんだろうとも思うが、そもそも「正式な名称」とかを気にしないのがアメリカ人である。
「そういえば、古いルートに枯れ枝なんかを放り込んで歩けなくしているのを見たけど、あれはキミらがやっているのか」
「あー、枯れ枝とかはレンジャーがやってるんじゃないかな」
微妙に区分があるようだ。
「5ヵ月間、ずっとそんな作業があるの?」
「だいたいあるよ。来年に持ち越しの作業もあるし、やろうと思えばいくらでもあるんじゃないかな」
山での生活のこと、作業のこと、面白くてずいぶん長時間話させてもらった。彼は自称スキー狂いで、冬はスキーばかりして過ごすか、カネが欲しければスキー場でバイトするかだそうで、夏だけ働けるメインテナーは都合のいい仕事だという。今後も続ける気満々だ。イヤならその年はやらなきゃいい、というスタイルらしい。
「そうは言っても、夏中ここで過ごすんだ。キツくない?」
「いやあ。この景色、この環境の中で過ごせるんだ。素晴らしいよ!」
そんな話をしていたら「おっと」と言って彼がトレイルからどいた。自分も横を見て同じ方向に避けた。通行者だ。だがただの通行者ではなく、それは「ロバに乗った男」だった。
アメリカの自然保護区はペットを連れて行くことに規制があるのが普通(規制しないと大量の観光客が犬の散歩に来る)だが、エリアによっては家畜の運用が許可されている。シエラネバダは舗装された道路がヨセミテを1本横切っているだけで、あとは道路で多少アプローチできても中に入っていくには歩きか家畜かしかない。レンジャーも馬やラバを使っている。この制度を逆手にとって、馬やラバに乗って野外を楽しむ人たちがいる。また自分はペット(だと思う)の背に荷物を縛り付けて歩いているハイカーを見たことがある。それはヤギだったりリャマだったりアルパカだったりしていつも驚きだが、この男はさらに珍しかった。ソンブレロ(メキシカンハット)に毛織のポンチョ、拍車の付いたブーツをはいて、まるで開拓時代のようなスタイルだったのだ。見事な口ヒゲもたくわえていた。乗っているのは全身真っ黒で、自分の知っているラバより耳が大きく、耳の先端にいくつかまとまった短い剛毛が生えていたからロバだと思う。
あまりの見事なコスプレぶりに自分は口をあんぐりと開け、写真を撮るのも忘れてロバを見送った。
ヒゲのメインテナーはくっくっく・・・と笑いをこらえながらこちらを見て
「なあ。この環境に5ヵ月だぜ?たまんねえだろ!」
と言ってきた。全くだ。面白すぎる。ひと夏をシエラネバダで過ごすというのは、何ものにも代え難い体験なのだった。


2017年11月18日土曜日

アパラチアントレイルの「リッジランナー」(トレイルの話)



2010年、ATを歩いていた時の話。自分は「リッジランナー」に会った。
これは日本人としてはかなり貴重な体験と思われる。なぜならアメリカ人でもそれが何なのか、ほとんどが正確には知らないからだ。ハイカーなら知ってるかというと、結構みんな分かってない。「リッジランナーってのは、ATにのみ棲息する特殊な生き物で・・・」というのは、ハイカーの定番ジョークの一つでもあったりするのだが。名前だけは聞いたことがある、くらいが普通だと思う。
その時はとあるシェルターに一人きりで泊まったので、自分は屋内にハンモックを吊ったのだった。朝食後ゆっくりお茶を飲みながらグズグズしていたら、突然若い男が1人「ハーイ」と入ってきてシェルターをぐるっと回り、ゴソゴソとあたりをいじったりし始めた。そのうち彼は自分のところに来て、こりゃ初めてみた、面白いね!と話しかけてきた。まあね、オレは時々やるよ・・・と返して、一瞬止まってしまった。そのままハンモックの話をしても良かったのだが、好奇心が抑えられなかった。
「それで、キミは?」
「ああ、ボクはこのシェルターをチェックしに来たんだ。邪魔したならゴメンね」
「いや、そんなことは全然ないけど・・・キミは、もしかして『リッジランナー』?」
「そうだけど」
「そうか!いや、自分は日本から来たんだけど、トレイルのことにいろいろ興味があってね。すまないが、いくつか質問しても良いかな?」
彼は笑いながら「いいよ!なんでもどうぞ」と言ってくれて、しばらく床に座って質問攻めにさせてもらった。ちなみにリッジ(Ridge)というのは尾根・稜線のことで、山の尖って続く部分を意味する。
ATのシェルター。ハイカーたちは、日常的にこの小屋に寝泊りする

彼によるとリッジランナーの仕事は、トレイルやシェルターの現状をチェックするために「毎日歩き回る」こと。修繕作業は含まれていないという。所属は地元の「マウンテン・クラブ」だが、彼のギャラは元をたどればATC(アパラチアン・トレイル・コンサーヴァンシー。AT評議会)から出ているらしい。
アメリカらしく労働条件が決まっていて、月に20~22日山に入ることになっている。週に5日を4週でもいいのだが、まとめて働いてまとめて休んでも構わない。ちょうど先月、連続2週間の休みを取ったばかりだというから何をしたのかと尋ねたら、隣の州に前から行きたかった山があり、そこを彼女とハイクしてきたらしい。ビョーキだ。
それはともかく、トレイルの崩落や倒木、シェルターの現状についての彼の報告は地元のクラブに行き、そこから業者なりボランティアなりによる補修の計画が立てられる。彼自身は、誰(どの団体)がトレイルを直したりしているのかよく分からないそうだ。ATは1本のロングトレイルだが、ローカルトレイルの集合体でもある。ATCはよくアメリカ最大のハイカー組織と揶揄され、他団体に比べてはるかに潤沢な資金と人員を持つが、ローカルなトレイルの管理は現地の団体に任せているという(コレはATCの事務局で教えてもらった)。各団体を統括するのがATCの役割なのだが、場合によっては直轄型のトレイルメンテナンスなどもある。リッジランナーは担当のエリアが決まっているが、彼自身あんまり細かいことは気にせず、多少はみ出したりして歩き回っているという。所属のクラブ、隣のエリアを受け持つクラブ、ATCのどれが出てくるかは「考えたこともないね」だそうだ。
リッジランナーはAT独自のシステムらしく、多くのハイカーが「他所では聞いたことがない」と口を揃えていう。ここで当事者に確認したのだが、本人も正確なことは知らなかった。アメリカとはいえ、日常的に見回りが行われているロングトレイルがそれほどあるとは思えない。全米一の人気を誇るATならではだろう、と意見が一致した。
彼はまるでトレイルランニング用のような、小さくて細長いバックパックを背負っていた。見た目で30リットルくらいか。シェルターの場所と、そこまでかかる時間を完璧に把握しているので、テントは持っていない。夏場だったのでマットも寝袋も持たず、夜はスリーピングバックカバーだけをひっかぶって寝る。毎日1ポンド(約450g)ほどの食料を食べ、だいたい4~5日続けて山で過ごす。悪天候なら山には入らない。
当時のATはウルトラライターがほとんど見られず(1度ブームが来て過ぎたあとだった)、たまに現れると周りから珍獣扱いで質問されていたりした。だから彼は自分が半年間ATを歩いて見た中で、最も軽量な装備で山に入っていた人物だと思う。袖がちょっぴりしかない小さなTシャツ、腿の付け根ぎりぎりまでのクラシックな短パン、くるぶしが見えるほどショートな靴下(インビジブルとかノー・ショウなどと呼ばれる)にランニングシューズという、身につけるものも極限までそぎ落としたスタイルだった。
アパラチアントレイルの、倒木を処理した跡。撤去ではなく通路だけ確保されたものがしばしば。
ATのサインが刻まれていることもあり、遊び心が見られる

 25歳だという彼に、最後にちょっと意地悪な質問をしてみた。
「将来とか、どう考えているの?」
すると彼は
「将来・・・?」
と、不思議そうに聞き返してきた。
「いや、なんて言うかさ。不安とかないの?ずうっとリッジランナーやるつもり?」
「不安って・・・特にないねえ。ボクはこの仕事、気に入ってるよ」
そう言うと彼は外の景色に目をやってシェルターの壁に背をもたせ、幸せそうにほほ笑みを浮かべた。
アウトドア大国のアメリカでは、多くの若者が「アウトドアを仕事にする」ことを夢見るという。彼はやや特殊な形ながら、その夢を実現してしまったのだ。彼は自分の現状に、心から満足しているようだった。


2017年11月4日土曜日

2017シーズン個人面ざっくり振り返り

帰国しました。
今年(2017年)は4月半ばから10月半ばまでをアメリカで過ごし、前半にヘイデューク・トレイル、後半にパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)を歩きました。

ヘイデュークは800マイルということになっているけど、そもそもあんなにクロスカントリーが多くて距離なんかカウントできるのかという話はともかく、ショートカットしたり、寄り道して長くなったりして、本線より短かったことはない。最後に40マイルほど余計に歩いて国立公園を出たので、自分の距離はトータル800から850マイルと言えるかなと思います。

一方PNTでは山火事回避でバスを使ったり、ロードウォークが長すぎるところでヒッチしたりしてかなり短くなった。公式には1,200マイルちょっとあるはずですが、自分の歩いた距離は約1,100マイルか、もしかするともう少し短いかもしれない。

ヘイデューク・トレイルは、クロスカントリーが異常なほど多かった

合わせると、今シーズンはロングトレイルを約1,900マイル、メートルでいうと3,000kmちょっと歩いたことになります。これで、自分のトレイルマイルは14,500マイルくらい。2万3,000kmを超えるトレイル経験の全てがアメリカで、これだけアメリカのロングトレイルを歩いた日本人もちょっといないでしょう。特に今年は、普通の日本人なら絶対やらないようなハイクも経験しました。理解してくれる人間はほとんどいないので自分で自分を褒めていますが、今期は異常なほどクロスカントリーを歩いたこと、アメリカ南部の乾燥地帯をたくさんハイクしたこと、海岸歩きを経験したこと、3大ロングトレイル以外にもフィールドを広げたこと、そのトレイルが現地にもほとんど知られていないエリアを歩いたことなど、個人的になかなか濃いシーズンだったと思います。
 
ギアを含めたスタイルについては、ほぼ通期にわたって乾燥し雨がほとんど降らなかったので、真夏のシステムを存分にトライ。ヘイデュークではタープ、PNTではタープ+ハンモックで過ごしました。ついでに、ヘイデュークがあまりに苛酷だったので(笑)、PNTではまだ暑い時期からしっかりしたブーツを履いたのですが、コレがハマって、例年より良い足の状態を保って帰国できました。歩く距離も控えめにしたし、雨も少なかったので一概には言えませんが、ここ最近の自分は夏に軽めの靴を履く事が多かったので、ちょっとまたスタイルを変えていきたくなっています。これからは夏に、軽めの中でも丈夫な…難しいですが。

パシフィック・ノースウェスト・トレイル(PNT)には、ビーチウォークのパートもあった


自分がここ数年、毎年のようにハイクに行くことについて「アメリカのロングトレイルに取り憑かれている」などと言われることがあるようです。他人にどう言われようと知ったことじゃあないというのが自分の基本姿勢ですが、それにしても分かっちゃいないなあと思います。

自分はちょっとした人生の成り行きの結果、いちご農家が知り合いに何軒もあるのですが、彼らは繁忙期になると毎日毎日収穫して、パック詰めして、出荷するという生活を送ります。時には夜明け前の真っ暗な時間から、ひどい人(ひどい、という表現が適当かどうかはともかく)になると、夜中の2時から収穫を始める。ほとんどの家は夕方に農協へ出荷するのでそれまで働き続け、そのまま「ひどい人」はパック詰め作業のためのプレハブに泊まりこみます。労働の量だけ考えると完全に働きすぎなのですが、身体の心配こそすれ、それを「いちごに取り憑かれてしまっている」という言い草は聞いたことがありません。

いちご農家は借金してビニールハウスを建て、資材や道具を揃え、春から苗を育て、土を作って植えつけ、肥料をやり水をやり、温度調節を日々繰り返し、消毒し、ハチをハウスに入れて受粉させ、出荷先を確保し・・・・・・秋も終わりになってようやく出荷が始まります。それまでに注ぎ込んだものが、ようやく収穫・出荷で報われるわけです。手を伸ばせばもぎ取れる、確かな実りが目の前にある。それはまた、自分のやってきたことが間違っていなかった証拠でもあります。ここで突っ張らずにどうすんだ、という気持ちは良く分かる。休むのなんか、旬が過ぎてからでいいんです。

自分はもうアメリカの、ほとんどのロングトレイルは「出発前日に準備したって平気」なレベルまで経験を積んでいます。そもそもハイクって、そんなに難しいもんじゃない。誰だって、農協のカレンダー通りにスケジュールをこなしていけば、旬が来ればいちごが採れるんです。 たくさん実らせる、大きく甘く実らせるには色々ワザがある(と多くの人が言う)けれど、一度農家になってしまえば、収穫までこぎつけることはもう想定できるんです。そしてアメリカには、魅力的なロングトレイルがまだまだある。自分もいつまで身体が自由に動くか、いつまで社会的に自由でいられるか分からない。今が旬なんです。手を伸ばせば届く、赤く熟そうとしている実が目の前に大量にぶら下がっているんです。突っ張れるだけ突っ張り通すしかないでしょう。



自分個人の話とは別に今年は一つ、どうしても避けては通れない話があります。1人の日本人PCTハイカーが、シエラネバダで亡くなったのです。

実はもう1人、 アジア系のPCTハイカーが同じエリアで亡くなっています。このほかに南カリフォルニアの乾燥地帯で亡くなったアメリカ人もいて、まだ行方不明のハイカーを除くと、スルーハイカーとして周囲に認知されていた中で命を落としたのはこの3人だけです。

これは非常に大きな問題です。つまり、日本そしてアジアにに向かって発信されている「アメリカのロングトレイル」、もっとはっきり言えば「スルーハイク」は、根本的に間違って届いてるかもしれないのです。

これはまた別に書かなければならないのですが、スルーハイクを良く知らないメディアは、それを一種の「超人レース」のように表現しがちです。歯を食いしばってゴールを目指し、破れた者は涙をこらえて撤退する。そんなロマンチシズムはウソなのだと、実際に歩けば普通は気づくのですが。それは受け手の問題でもあります。ハイクのスタイルは人それぞれだから、個人がスルーハイクをどう考えようと自由です。 問題は「急げ」という忠告を拡散する人たちがいることです。

アウトドアにおいて、自分のキャパ以上の行動をせよというのは「命をかけろ」というのに等しい。だから「急げ」は完全に間違っています。ハイクは遊びだから、どんなに長かろうと命がけになるはずがない。第一、スルーハイカーは必要に応じてトレイルの区間をスキップします。そんなレースなんてない。どうしても「スルー」を達成したければ、自分の歩ける距離に合わせてスキップしろというのが正しいはずです。

亡くなった方に何が起こったのか、実際には分かりません。しかし、アジア人だけが2人もシエラで命を落としたというのは、アメリカでも一定の傾向として受け止められていると感じました。
「誰かのブログを読んで情報収集」が当たり前の時代に、発信してしまっている側として、誤解を広めることに抗っていかなければならないと思います。日本にも、ささやかながらハイカーのコミュニティが存在します。していると思います。今回の事故で、みんな大きく傷ついた。二度とこんなことが起きてほしくない、と強く思ったシーズンでした。





2017年9月17日日曜日

アメリカのアウトフィッター(アウトドアショップ)

アメリカのアウトフィッター

ロングトレイルを歩くハイカーは、アウトドアギアを扱う店を「アウトフィッター」と呼ぶことを好みます。ただし、コレは一般的な用法ではありませんのでご注意を。あくまでハイカー同士の間で通じる呼び方です。
長期間アメリカをハイクすると、どうしてもギアの買い替えや新規購入が必要になることがあります。また、日本では手に入れづらいギアが安かったり、アメリカでしか見られない商品があったりもします。実地で試用する機会が豊富(というか毎日)な環境で、何も買わない手はない!全て日本で揃えてくるより、現地でいろいろ悩んでみるのも旅の醍醐味ではないでしょうか。
時代が時代なのでネット通販でほぼ事足りるのですが、基本的には実在の住所(宿などに頼む)とクレジットカードが必要になります。

ロサンゼルスのアドベンチャーシックスティーン

インターネット通販

Amazon.com
日本の楽天のような「インターネットモール」がないと言われてきたアメリカ。現在ではアマゾンが「アメリカ最大のインターネットモール」となっていて、アウトドアギアもいわゆるマスプロダクトならほぼ何でも買えます。自分はAmazon.co.jpのアカウントで使っていますが、できないことも多いようです。アメリカでアマゾンプライムに加入すると2days shipping が無料になりますが、Amazon.co.jpが配信するドラマや映画などはアメリカから見られません。プライム非加入でのfree shipping58 business daysとなっており、週末をはさんで最低1週間はかかります。

Backcountry
インターネットアウトドアギア専門店のバックカントリー。型落ちのギアはセール品となってすぐ在庫切れになってしまうので、最新のギアを定価で買うなら最適のサイトかも。もちろんシーズンごとにセールもやってます。50ドル以上購入で2days shippingが無料になるので、使い方によっては非常に便利です。

実店舗もあるらしいのですがほぼインターネット販売のムースジョー。日本の大型電器店のような「最安保証」をしていてハイカー仲間にファンも多かったのですが、最近ウォルマートに買収されてしまいました。今後どうなるか、ちょっと見守り中。

Sierra Trading Post
こちらも実店舗がありながら、どうもインターネットのほうが大きくなってしまったようなシエラトレーディングポスト。シーズンオフのギア/アパレルやモデルチェンジによる型落ち品を思い切ったセール価格で投げ売りすることがあり、掘り出し物が見つけやすいと評判です(あくまで自分の周辺の評価)。フェイスブックのアカウントを使ってアカウントを作れるので、他のネット店より日本人には使いやすいかも。

おまけ
B&H
カメラとビデオカメラおよびアクセサリの専門店だったはずが、画像映像に関わるモノならなんでも電器店になってきたB&H。中古品も扱っていて、よく見ると中古一眼カメラや中古レンズなんかは日本から送られてくるものが結構ある。自分はカメラで困ったら、アマゾンとココをチェックするようにしています。


大型アウトドアチェーン店

REI(Recreational Equipment, Inc.)
アメリカ最大級と言われるアウトドアチェーン店、アール・イー・アイ。アメリカのロングトレイル経験者たちがしきりと言及するのでよく誤解されますが、REIは総合アウトドアショップであり、ハイカーのニーズを何でも満たしてくれる店ではありません。一般的なギアなら大体手に入るし、会員になると購入額の10パーセントキャッシュバックがあり、通販も使えるので便利、というだけ。

EMS(Eastern Mountain Sport)
アメリカ東北部に展開するチェーン店、イーエムエス=イースタンマウンテンスポーツ。アパラチアントレイルをハイクするなら、思い切って都市に出れば実店舗に寄る機会があるかもしれません。オリジナルブランドのハイキングパンツが個人的にコスパが高くてお気に入りです。REIとは違うタイミングで型落ち品を値下げしたりします。Obozの靴など、ブランドによってはREIより充実していることも。

A16(Adveture16)
カリフォルニアに展開するチェーン店、アドベンチャーシックスティーン。Western Mountaineeringの寝袋が大量に吊るし売りされていたりして、個人的には実店舗が断然楽しい(笑)。サンディエゴのREIはメトロの駅やバス停から遠いので、PCTの南端に自力でアクセスするならまずA16に寄ることをおすすめします。ロサンゼルスの店舗(サンタモニカに近い場所にある)もいい感じの店ですね。

MEC(Mountain Equipment Co-op)
カナダのREIことメック。なぜアールイーアイのようにエムアイシーと呼ばれないのか、理由は誰も知りません。
今でも「組合員にならなければ買い物できない」システムを貫いてます。品揃えはREI同様に大型の総合アウトドアショップですが、REIが郊外に店舗を持つことが多いのに対して、MECはカナダのほとんどの大都市にバスか電車で行ける店舗を持っています。アメリカのカナダ寄りエリアはグリズリーの棲息域であることが多いので、アウトドアでカナダからアメリカに入国するならベアスプレーなどチェックする必要があります。出発前に実店舗に寄ることをおすすめします。


ハンティング・フィッシング&キャンピング大型チェーン

Cabela's
超大型の実店舗が有名なカベラス。ハイカーには想像もつかないようなハンティングギアがあって楽しいです。アパラチアントレイルから寄れる国内最大店があります。

Gander Mountain 
中古の銃コーナーが恐ろしく充実しているガンダーマウンテン。もちろん日本人には買えませんが。キャンピングギアもそれなりに揃えています。

Sportsman's Warehouse
割と本格的なハイキングギアが揃っているスポーツマンズウエアハウス。チェーン店でありながらローカルに根ざしたハンティングとフィッシングの情報が充実していて、最近の釣り状況などはココで直接聞いてしまうのが簡単。


大型スポーツチェーン

BIG 5
スポーツとアウトドア、フィッシングのチェーン店ビッグファイブ。驚くほど安物のバックパックを売っていたりして、それをトレイルで見かけることはほとんどありませんが、困った時には助けになるかもしれません。個人的には安い釣り具と釣りのライセンスを売っているので、そっちでお世話になってます。

Dick's Sporting Goods

総合スポーツチェーンでありながら、ハンティングやフィッシング用品も扱うディックス。カヤックなんかも売ってます。倒産したSports Authorityを買収したのも記憶に新しい。トレイルランニングシューズなら、アウトドアチェーンよりも充実していたりします。


ウルトラライト系独立ブランド(通販)

もうインディペンデントというには大きくなりすぎたブランドばかりで、日本からでも買えるけど、せっかくアメリカ来たのなら!ということで一応。Integral DesignsRabに買収されたはずちょっとうろ覚えですが。GoLiteの傘(Chrome)は今やGossamer Gearが生産していたりして、このリストもいつまで正確か分かりません。

Six Moon Designs 

ULA

Hyperlite Mountain Gear

Gossamer Gear

Zpacks

Mountain Laurel Designs

Rab

Yama Mountain Gear

Borah Gear


その他

Laguna Mountain Sports & Supply
PCTの南端から北に向かって歩き出したハイカーが、最初に寄れるトレイルサイドのアウトフィッター。後になって「結局あそこが良かった」という意見が続出します。店構えは田舎の小さな個人店ながら、ウルトラライトからオールドスクールまで様々なギアがあって飽きません。自分は2014年にレジ周りのアタマの上からZpacksのヘキサミドが複数ぶら下がっているのを見て爆笑しましたが、金属棒を擦って火花で点火するファイヤースターターなんかもあってもうカオスです。店主のデイブは、客が来る春と秋に集中して店を開いていて、夏はハイクに冬はスキーに行っちゃいます。

オレゴン州ポートランド
日本人はなぜポートランドを愛するのか、という記事がアメリカで書かれるほど人気のポートランド。アウトドアショップが多く、オシャレな街歩きとギアショッピングが同時に楽しめます。
ローカル店としてはNext Adventureネクストアドベンチャー
(https://nextadventure.net)が個人的にお気に入り。PCTハイカーが多い時期(8月末くらい)にはULAのバックパックをズラッと並べて売っていたのに、寒くなりかけの時期に訪れたらグレゴリーやケルティに全部入れ替わっていたのを見ました(笑)。中古品が充実しているのも面白い。別店舗のパドルセンター(カヌー・カヤックなど)も、少々交通の便は悪いものの楽しいです。
本社併設らしいKeenの直営店Keen Garageは凄くオシャレでこれぞポートランド(日本人の固定イメージ?)といった雰囲気。お洒落という意味では、ココとニューヨークの2店しか実店舗が無いSnow Peak USAのストアが魅せるディスプレイをしていて驚きました。同じくMont-Bell USAもココとコロラド2店しかないのですが、こちらは日本のモンベルと同じようなディスプレイながら、もう日本では手に入らない商品なんかがあってマニアには面白いかもしれません。
オレゴン州発祥スポーツカジュアルブランドColumbiaの旗艦店(アメリカには「本店」という概念が無いようです)は、カジュアルめのアパレルが充実。隣の店舗がコロンビアに買収されたMountain Hardwearで、こちらは内装などは普通の都市型路面店なのですが、専門店が見られるというだけで日本人には貴重かと。ブランドの専門店というと他にはNorth FacePatagoniaがあり、どっちもショッピングモールよりポートランドで街歩きしながら見る方が楽しい。日本では見られない、Icebreakerの店舗も個人的には要チェックです。


情報を上げればキリがないのですが、このくらいあればアメリカのロングトレイルを歩くのに支障は無いかと思います。アウトドア好きがショップやギアばかり見ていても仕方ないのですが、やっぱり楽しい(笑)。これを見て買い物に行くヒトは、きっとアメリカを楽しく歩いてくれるのではないかと思います。ぜひ参考にしてください。

Happy Trails !



2017年6月10日土曜日

妄想バックパック脳内検討委員会(後編)

前回の続き。中量級以降です。
軽量級だとネット通販が多いが、自分のように長旅を想定すると、そこそこ丈夫でフレーム入り(ある程度の重量を安定して背負える)が当たり前だから、店頭で手に入る大手メーカーの製品になる。実質的にはほとんどオスプレーとグレゴリー二択で、ちょっといろいろ考えてドイター、くらいがアメリカのマーケット事情だろう。

中量級

Deuter ACT Lite 50+10

ここ数年愛用して来たACT Lite。同クラスの他社製品に比べ、横幅が3cmくらい細身で、腕の動きを妨げないのがお気に入り。また実質50リットルのフォルムなので、荷物が小さくスッキリする。サイドのコンプレッションは、上の気室の横にベルト一本(クリップ付き)だけで自分はあまり上手く使えなかったが、気室を平たくして背中に重心を近づけることよりも、上の気室に荷物を集めることでバランスを取っていた。バックパック自体の重量は1730g。

Osprey Volt 60

昨年あたりに背面パネルを変更して、「大きなタロン」に近づいたボルト。オフィシャルのビデオではヒップベルトに変更は無いが、今年(2017年)店頭で確認したら少しシンプルな物に変わっていたように見えた(以前のモデルでは移動できるウエストのパッドがあったが無くなった)のでまだマイナーチェンジするかもしれない。ボトムがガバッと開き、メーカー推奨で23kgまで背負える。

実は、ヘイデュークトレイルを歩くにあたって自分はボルトも検討した。ただ、考えたのはワンサイズ大きな75だ。食料を8日分とか水を8リットルとかが何回も、という条件から、容量の大きいモノを考えた。なんとボルト601780gなのに、15リットルも容量が大きい751840gしかない。

Volt75

今後、2週間補給ナシとかいうハイクをするハメになったら、この75は有力候補だ。



アメリカのアウトドアショップでバックパックを眺めるからには、当然グレゴリーも考えていた。ただ、最初はスタウト(Stout)というモデルを見ていた。スタウトはバルトロの軽量版だろうと考えていたのだが、モデルチェンジして随分スッキリしたデザインになったなあ、と思ったところにパラゴンがリリースされた。

Gregory Paragon 58

えっ、グレゴリーがこんな軽いモノを出したのか!と驚いた。小さなインナーのサック(グレゴリーは「サイドキック」と呼んでいる)とレインカバーも付いて、トルソー短めのS/Mサイズなら1590gということになっている(新しいモデルなので、まだいろんな数字が出てしまっているけどコレがどうやら本当。M/Lだと1620gか)。トップリッドが取り外せるようになっていて、ここはスッキリした新スタウトと大きな違い。
S/Mサイズだと55リットルになるそうなので、ワンサイズ大きなこちらも検討。

Paragon 68

レインカバーとサイドキックを除けば1600gくらいになるようだ。
グレゴリーが(彼らにしては)随分軽量なモデルを出してきたというのは驚きだが、オフィシャルサイトでもそのスペック、特に重量に関する表記がメチャクチャなのが笑える。現在のハイカーが、どれだけネットでスペックをチェックしているかよく分かってないのだなと思う。心配だ(笑)
とにかくヒップベルトはしっかり、大きなアルミフレームで安定してそう。背負い心地を保ったまま軽量化、のモデルに見える。

MountainHardwear Ozonic 65

防水バックパック、というのは時々見かけるが、なかなかメジャーになるものはない。やっぱりみんな、穴が開いたらそれまでというのが引っかかるのだろうか。このオゾニックも昨年くらいからレビューなどを眺めていたのだが、最近安売りでしか見かけなくなった。レインカバーやスタッフサックが不要になるから、方向性としては良いはずなんだけど。


軽重量級

Osprey Atmos65

このクラスになると、前面(背中から遠いほう)がガバッと開いて「中身が見える」バックパックが出てくる。昔はコレが当たり前、のデザインで、慣れた人には捨てがたい機能だろう。オスプレーでは、前面ポケットがもっとスッキリしたAetherというモデル(サイドジッパーで主気室にアクセスできる)も人気だが、重量を比べてみるとこちらの方が軽い。どちらもよくアメリカのロングトレイルで見かけるが、ロングディスタンスでは少数派か。


Gregory Zulu 65

ZuluZシリーズの後継モデル、のはずなのだが、コレとスタウトを見てはっきり分かるのは、グレゴリーもとうとう軽めのモデルで前面ポケットを簡素化したということだ。それでも前面がガバッと開く、を残したのがズールー。つまり重い方から考えると名作バルトロは縦にジッパーで開く前面ポケット付き、ポケットが無くなればズールー 、主気室への前面からのアクセスを無くせばスタウト、トップリッドを取り外せるようにすればパラゴンというラインナップになる。


MYSTERY RANCH STEIN 62

アメリカでもチラホラ店頭に現れてきているミステリーランチ。実は、ミリタリーやハンティングのギアを扱う店では定番。
スタインは取り外してデイバッグになるトップリッドがなんだか不思議な形をしているが、ロングディスタンスで歩いているとバックパックを背負ったまま頭の後ろのジッパーを開けて中身を取り出すハイカーが結構いる。このトップリッドはそれを考慮しているのかなと思う。個人的には、ボトムを左右からコンプレッションする機能が面白い。寝袋や保温ジャケットの類いは、昔に比べて随分小さくまとめられるようになった。重量バランスを考えると「下が小さくなる」機能があってしかるべきなのだが、自分が愛用してきたドイターは下の気室の容量が全く変わらない(隔壁を解放して上下の気室を一つにすることはできる)。グレゴリーやオスプレーは下の気室がまあまあ狭く、隔壁は取り外せるのだが、重量バランスを上にできる訳ではない。そう考えるとミステリーランチのこの機能は面白い取り組み。



中量級と軽重量級は、重量級の名作を簡素化したモデルになりがちだ。自分としては、当分の間は
1、前面はメッシュポケットのみ
2、上と下から内部にアクセス
3、トップリッドは取り外せる
4、フレームあり
5、背中の通気を保つ機能あり

というあたりが現在のトレンドで、しばらく同じような機能のバックパックを各社が出し続けるのではないかと思う。
2013年にPCTを歩いている時、ドイターのエアコンタクトをハック(改造)して、トップリッド無しにして上の口をロールトップにしているハイカーがいた。今回検討した中量級のモデルはみんな紐で口を絞るようになっているから、この辺はまだ変わってくるかもしれない。

妄想の結果、軽重量級のフォルムを保ちつつ上手く軽量化したオスプレーのボルトと、思い切った攻めの軽量化に出たグレゴリーのパラゴンに絞りました。
最終的に、購入したのはパラゴン68。小さくスッキリするのでパラゴン58も魅力的だったけど、S/Mサイズは55リットル相当なのでちょっと小さい。自分はバックパックの外にいろいろ吊るしたりしがちなので、ココでちょっと大きめにして中にバンバン荷物を放り込むスタイルにチャレンジしようかと。昔、GoLite70リットルを使ったことがあるけどそんな感じになるか。そして容量が余ったらトップリッドを無くすことも検討します。

ただし、ココで日本のみなさんにお伝えしなければならないことが……。パラゴン68は、日本では定価36,720円(税込)なのですが、アメリカでは税抜き定価が250ドル。自分は2割引セール(毎シーズン必ずある)で、本体200ドルプラス税の216ドルにて入手しました。そしてボルト60は定価180ドル、75200ドル。2割引なら144ドルと160ドルだから、36,000円出すつもりならパラゴンとボルト両方買えちゃうってことなんです。正直、帰国時に自分へのプレゼントとして買ってしまうかもしれません。

ということで、しばらく使い込んだらパラゴンのレビューを書きます。軽量化して、果たしてハードな使用に耐えるタフさは保たれているのか?という視点から、ヘイデュークトレイルで使ってみるのは最高のテストだと自分では思っています。妄想から現実へ、いざ実践!

2017年5月31日水曜日

妄想バックパック脳内検討委員会(前編)

久しぶりに、メインのバックパックを買い替えようかなと検討中。自分はだいたい、60リットルくらいのをロングトレイルに使っている。3泊くらいまでなら最近はOspreyTalon44を使っているが、5泊以上のセクションがあって期間が1カ月以上になると、もう少し容量が欲しい。
また、時には自分のスタイルをはみ出した視野でギアを見てみると、自分がなぜ今のを使っているかが浮かび上がってきて役に立つことがある。新しい考えが入ってくることもあるし、何より楽しい(笑)。
ということで、軽い順に妄想。


軽量級

世の中には500gを切るような超軽量級もあるが、そこまではカバーできない。まずは軽量級定番のゴッサマーギア。

Gossamer Gear Mariposa 60


容量だけ考えるとマリポーサになる(アメリカ人の発音を聞くと、コレを「マリポサ」と書くのは自分には耐え難い)。自分は現在、ウレタンマットを背中に入れない前提でエアマットを使っている。そもそも荷物が重いので、この手のバックパックは対象外だったのだが、ゴッサマーは2016年にえらくしっかりしたヒップベルトを出し、コレがマリポーサのアルミフレームを差し込むことで一体化する形になっている。パッドさえ入れれば自分のスタイルでも十分アリだ。脇のポケットにソフトウォーターバッグを入れると、手持ちの水容器が全てソフトタイプになる。水バッグはリークが怖いので、外にはハードボトル(だいたいペットボトル)で中にはソフトタイプのウォーターバッグ、が自分のスタイルだ。ココは個人的には使いづらそう。
最近のウルトラライターを見ていると、ゴッサマーでもゴリラ40が多い。ただ40リットルでは自分には無理があるので、もう少し大きなシルバーバックか。

Gossamer Gear  Silverback 50


一応フレームが入って、背中のムレを防ぐメッシュパネルがあり、外にハードボトルで水を入れる。こっちの方が現実的だ。

しかし、他のブランドならもっと容量が大きなモデルがある。だいたいウルトラライトのバックパックは外ポケットをルースにして容量に数えているから、少し大きめを選ぶ必要がある。

Hyperlite Mountain Gear 

3400 Windrider


ロングトレイルでも自分のような超ロングディスタンスをやっていると、ゴッサマーよりもHMGの方が周りに多くなってくるように感じる。ゴリラとかは、12週間くらいのセクションをウルトラライトで歩いているハイカーに多い。
実はヘイデュークトレイルを歩くに当たって、自分は真剣にウインドライダーを検討した。ただ、ロールトップだけだとおそらく自分は入り切らないくらい詰め込んでしまうから、買うとしたらもう1サイズ大きな4400(70リットル相当)が妥当だろう。しかし、ヘイデュークでは食料や水を大量に運ぶために容量が必要だから、自分のやり方だと瞬間的に総重量25kgオーバーとかになりかねない。さすがに無理がある、と考えてやめた。
あとやっぱり、背中にパネルは欲しい(アルミフレームはある)。となると、ほぼ同様の構造ということでこっちもある。

Zpacks Arc Blast


Zpacksがバックパックを作り始めた時、自分の周りではあまり評判が良くなかった。使っていたのはスカウト(2015CDT)くらいだ。大きめのフレームとメッシュパネルが別売りで、自作で取り付けることになっている。


側面がコンプレッションできるのもいいし、色々オプションもあるから軽量級ならほぼ納得のスペックだ。今からアメリカ3大ロングトレイルを歩くなら、個人的には軽量級の第一候補になる。ヘイデュークでは8日間のセクションとかが連発で、55リットルでは少し物足りないから検討しなかったけれど。下から内部にアクセスできるジッパーを別注で付けてくれるなら、いずれ買ってしまいそうだ(笑)。

ウルトラライトのブランドも、取り外しを前提としないフレームや背中のメッシュパネルを採用するモデルを随分と出してくるようになった。つまりこれは一つのトレンドと言えるだろう。自分はこのトレンド感というのを割と重視していて、同じような構造のギアが各メーカーからどんどん出てくる時期というのがあるのだ。超軽量を突き詰めるハイカー達は別にして、次のブレイクスルーが訪れるまではこの形が軽量級のスタンダードになるだろうと思う。


軽中量級

長旅には2気室、が自分のスタイルだけれど、1気室を受け入れれば俄然バックパックは軽くなる。まずはアメリカのロングトレイルと言えばコレ、エクソス。

Osprey Exos58


個人的には少し横幅が広いのが気に入らないけれど、容量があってかなり軽く、それでも結構頑丈にできている。REIFlashなどが同じような構造を採用していたから、これも一つのトレンドを作ったバックパックだと言える。今見たらエクソスはオフィシャルサイトで在庫無しになっているが、モデルチェンジするのだろうか。

もっと以前にトレンド、というか一時代を築いたのがグラナイトギアだ。

Granite Gear  Crown V.C. 60


非ユーザーからすると、もう進化を止めてしまったかのようなクラウン。そもそもトップリッドはオプションで、本体は本当に一つの袋みたいな構造がシンプルの極みだ。ナイロンの布を買って封筒の形に縫い、バックパックメーカーのショルダーハーネスとヒップベルトを付けるという自作派の、理想がそのまま市販されてしまったかのようだ。個人的には重心が低くなりすぎるのが不満だが、入り切らない荷物をトップにくくりつけることもできなくはないし、背面パッドもかなりしっかりしていて、何と言っても軽い。確かに、もう何も変わらなくてもいいかもしれない。だが、それならもっと何かあるんじゃないかというのが現代だ。

今は、何と言ってもULA だろう。

ULA Catalyst


1つの袋をいかに背負い心地よく仕上げるか、のトップを走っているのがULAだろう。勝手に軽中量級に入れてしまったが他より少し重く、その分丈夫だ。
また、意外に大事なのがヒップベルトが交換できることで、長期間歩いているとパーツが壊れるのはもちろんだが、ウエストのサイズが変わってしまうことがよくあるのだ。スルーハイクでカラダのシェイプを変えた(痩せた)アメリカ人ハイカーたちを見ていると、どうしてヒップベルトを取り外しできないバックパックが存在するのかのか不思議に思えてくる。この3種の中ではエクソスだけができない。

軽中量級は上記3種あたりがもう完成形を見ていて、次のトレンドとなる形を探している時期ではないだろうか。

Vaude Zerum 58


最初に見た時、前面(背中から遠い方)がガバッと開いて気室内にアクセスできるのかと思ってコーフンしたゼルム。結局そのジッパーは前面ポケットだけのもので、その周りにはさらに外ポケット的な(多分メッシュとかで)覆いを取り付けられるようにクリップホルダーがあった。どっちか片方だけでいいのではないか、と思うが。背負い心地と軽さをどこまでバランス良く作ってくれるか、今後に期待。アメリカで「国外ブランドのバックパック」というと、メジャーなのはドイターくらいだから、バラエティを考えてもっと伸びて欲しいブランドではある。

Deuter ACT Zero


このクラスに入れるには少々重いが、トップリッドが取り外せるので。ドイターのACTシリーズは上の口を紐で絞る、巾着袋の構造を取ってきたが、ACT Zeroではロールトップにしている。前面(背中から遠い方)のポケットはどうやらヘルメットを入れられるようになっているらしい。個人的にはウインドライダーのようにメッシュのモデルも出して欲しい。ACT Zeroの初期モデルには無かったと思うが、ボトムの外側にマットなどを付けられるストラップがある。

それにつけても軽中量級を見ていて思うのは、どうしてボトムにジッパーをつけてくれないのかという点だ。近年の2気室バックパックはほとんどが隔壁を外すなり一部をフリーにするなりして、上下からアクセスできる1気室として使えるようになっている。なぜ同じメーカーで下からのアクセスが有用だろうという意見が出ないのか。



さて、ここまでが前編。後編はいよいよ自分の本命である中量級と、軽重量級を検討(妄想)。そして、結局何を買うのか!実はもうネットで発注しました(笑)震えて待て……じゃなかった乞う御期待!