2016年11月9日水曜日

大統領選をハイカーが考察してみる

1、大統領選の投票率はせいぜい50%台。だから接戦なら浮動票でひっくり返る
2、そもそもオバマ(民主党)はアメリカでそれほど人気が高くない
3、共和党支持者は「オバマ的」な政策が嫌い
4、政党支持者の一部逆転現象が、票読みを難しくしている






とうとう大統領選。もつれてますねえ。
ここしばらく日本のメディアは「嫌われ者同士」などと繰り返し、トランプのどこが支持され、ヒラリーのどこが支持されないのかの説明に躍起だったと思います。
でもねえ。それって根本的に、トランプのどこが(こんなにも)支持され、ヒラリーのどこが(そんなにも)支持されないのか、って話ですよねえ。ほとんどの日本人が「いくらなんでもトランプはないだろう」と思うのに、選挙の見通しはいい勝負になっちゃってるって理解できないから説明してるということなんですよ。ニュースをよく見ないヒトの中には今でも「ヒラリーが勝って当たり前」と思ってる向きも多いのではないでしょうか。
これはメディアが悪いと思います。トランプとヒラリー、個人を語るだけでは説明できない、アメリカならではの事情があるのです。
ハイクには全く関係ありませんが、そして知ったかぶりの極みですが、アメリカのど田舎を散々歩いた日本人としてひとつ考察してみましょう。


まず大前提として、大統領選の投票率。日本でテレビを見ていると、長期間にわたって取り上げられることもあり、アメリカ国民はものすごく選挙に対して盛り上がっているような印象を受けます。しかし、長期間に見えるのは民主党・共和党党内の候補者指名が難航する様子が注目されるからで、実際には国全体がそんなに熱中しているわけではありません。選挙に対して醒めている層というのはどこの国にも存在します。しかし今回の選挙ではトランプの暴言・失言とクリントンの私用メール問題などがメディアを賑わしていて、普段投票に行かない層の「コイツはダメだから対立候補に入れよう」という危機意識が無視できません。だから、大手メディアでも結果を読みきれていないのです。

次に、日本人には「オバマは空前の高支持率を得た」という勘違いがありがちです。これはなんといってもオバマの前のジョージ・W・ブッシュ(共和党。父親はジョージ・H・W・ブッシュ元大統領)が世界的な嫌われ者中の嫌われ者で、民主党が政権を奪還したこと、黒人初の大統領であること、就任直後のノーベル平和賞受賞などの条件が重なったことから無理もないのですが、オバマの支持率はずっと50%前後です。2期目は不支持率が支持率を上回ることが多く、2016年に入って「久しぶりに支持率が不支持率を上回った」ことがニュースになったくらい。ヒラリーは民主党から立候補している時点で、国民の半分近くから支持されないリスクを抱えているのです。

近年、民主党は「社会的弱者に優しい」と言われる政策で支持を得てきました。黒人、ヒスパニック、低所得者層が支持者として挙げられ、ビル・クリントンが黒人たちから強い支持を得ていたことは今なお語り草です。当然、この支持層は8年後のオバマ政権に引き継がれます。
90年代、ビル・クリントン民主党政権は重工業中心だったといわれるアメリカの経済政策を大幅に転換し、インターネット革命を起こすことに成功しました。長年の懸念だった財政赤字を解消し、インフレを起こさず好景気を導いたのに、民主党は共和党に政権を奪われてしまいました。これも、日本から見ると政権末期のスキャンダル(モニカ・ルインスキーとの不倫騒動)ばかりが目立ちますが、そもそも任期のかなりを上院・下院が共和党に取られており、政党としての支持率が共和党に勝てるほど高くなかったといえます。

共和党は「小さな政府」がモットーです。支持層には比較的裕福な白人が多く、高い教育を受けているといわれます。政府の支出を減らし、なるべくなら税率も下げる。それは社会保障が手薄になることでもあり、一種の「自己責任論」にも聞こえます。日本人の多くは、オバマ政権が目指していた国民皆保険制度を「いいことじゃないか」くらいに感じていたのかもしれませんが、共和党支持者からはそれは悪夢と称されるほど抵抗があるものなのです。そもそも、この国民皆保険制度はビル政権時にヒラリーが提案したとされる民主党の目玉政策で、絶対に共和党からは支持されません。「移民が毎年入ってくる国で国民皆保険など実施したら、財政が破綻するに決まっている」というのはアメリカで非常に根強い意見で、こういう考えの層を取り込んでいるのが共和党なのです。共和党の考え方の根底に民主党アレルギーがある。これは、相手がどんな候補でも民主党が圧勝できない大きな理由の一つです。

今回の選挙では、支持者の逆転現象も起きました。ヒラリーの高い教育を受け、元弁護士で、元大統領夫人で、国務長官まで勤めたという経歴が、本来は民主党支持者である低所得者層から共感を得られなかったところにトランプの「不法移民を締め出せ」という意見が国内の雇用を確保するとして響いたこと。高学歴の共和党支持者が「トランプは滅茶苦茶な外交をしかねない」と感じること。ビル・クリントンは中間層への減税を行った(高所得者層への税率が下げられていたのは元に戻した)のですが、これが低所得者よりも中間層を優遇したと受け止められたことが民主党にとっては痛手でした。オバマ政権下で失業率は大幅に下がったのですが、低所得者層からはヒラリーの政策が自分たちにとっては後退になる気がする。しかし国内の経済的には成功したビルの弱点は外交だったとされ、それに対してヒラリーは経験十分で堅実な外交政策を取るだろうと高学歴層からは評価されます。

民主党支持者には、Yes, we can !と熱狂的に自分たちが生み出した政権が、期待ほど大きな成果を上げずに終わろうとするむなしさもあるでしょう。「不法移民を締め出せ」というのはトランプに限らず共和党が90年代から掲げてきた政策でもあり、言い方はともかく、それほど不利には働きません。ジョージ・W・ブッシュに勤まったくらいだから、スタッフを揃えればトランプにだって誰だってできるさというジョークもまかり通っています。

外国からはヒラリー有利で間違いなしと思われてきた選挙が、ここまでもつれる理由は個人の資質ばかりによりません。開票の報道から目が離せませんね。