2016年9月11日日曜日

アメリカ・ロングトレイルにおけるナイトハイクの正当性

2012年夏、カリフォルニア北部にあるLassen Volcanic National Park(ラッセン火山国立公園)は大規模な山火事に見舞われ、公園内に立ち入り禁止区域が設定された。公園を南北に貫くPCTと、いくつものローカルトレイルがハイク禁止となり、それは鎮火後も「燃え残った木が倒れて人を巻き込んだりする危険がある」との理由で1年以上にわたって続けられた。
しかし実は鎮火直後の2012年8月に、立ち入り禁止区域の一部だけがハイクOKとされたことがある。その理由がちょっと面白い。禁止区域はかなり広めに取られており、これはレンジャーも人間だから、歩くのが大変なエリアはその外側をぐるっと車で回り、道路からトレイルに踏み込む部分に立て札やら黄色と黒のテープやらを設置していたからなのだが、「火山公園」らしくその中に岩と砂礫ばかりで樹木なんか全然ない場所も含まれていたのだ。管理の大変さを除けば、鎮火後にそのエリアを閉鎖し続ける理由はない。で、レンジャーたちは"Open for Full Moon"と告知した。つまり満月にあわせて週末だけハイクを許可したのだった。
月を愛でるのか、それとも明るいから夜のハイクを楽しみたいのか。ハイカーや、ハイカーがよく訪れる店の店員などに尋ねてみたが両方だと言う。どうもエリア内にある山の一つは樹木がないから見晴らしがよく、夕日や月を楽しむために登られるらしい。またアメリカ人ハイカーは一般に暑いのが嫌いで、夏場は喜んで夜歩く。それはそれで、一つのレジャーの形らしい。日本では、暗くなってから山道を歩くだけで危険だ無謀だ迷惑だ、と罵られることがある(必ずではないが)ことを考えると、大変な文化の違いがあると思う。いい悪いは別にして、アメリカではナイトハイクは別に珍しくもなんともなく、文化として根付いていると言える。
あくまで個人的な考えだが、ここに日本の山道とアメリカのトレイルの違いがあるように感じる。アメリカでは、山頂に至る小道も山腹を横切るルートもトレイルと呼ばれるが、それぞれが一本の線として捉えられる。だいたい、トレイルに名前があるのが普通だ。だから、日本の山では「(ここは)○○峠」とか「(あっちは)○○岳」というような標識しかないが、アメリカではその他に「(あなたが今歩いているのは)○○トレイル」というような標識があり、さらにそのトレイルを表すサインが道端の木や岩についていたりする。メジャーなトレイルでは、そのサインを辿ればまず迷わない。あのシステムに慣れてしまうと、日本の山道はなんと分かりにくいのかと思ってしまう。何しろ、山道の交差点に差し掛かるたびに地図を出し、こっちは稜線へ向かうがこっちは沢へ下るのだな、などとやるのだ。アメリカなら交差点に何本トレイルがあろうと、使いたいトレイルのサインがある一本を選ぶだけで良い。
だから、暗い中で歩くと、つまづいたり高所から転げ落ちたりする可能性は当然あるわけだが、アメリカのメジャーなロングトレイルでは「道に迷うことが少ない」という点がかなり安全を担保してくれる。危険だからと非難されることもない。暑い時期に涼しい空気の中を歩く、というのも、やってみると実に気持ち良い。一つの文化として自分はちょいちょい楽しんできた。もし「山を夜歩くなんて!」と思う方がいたら、そういう文化的なバックグラウンドの違いがあるということをご理解いただきたい。

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